漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―
大高郁子
漱石クロニクル
―絵で読む夏目漱石の生涯―
大高郁子
第十四回 博士号問題と文芸欄の廃止―そして、五女ひな子の死
明治四十四年(一九十一年)四十四歳
一月一日、『門』が春陽堂から出版される。橋口五葉装幀、一円三十銭。
二月二十日の午後十時頃、自宅の郵便受けに文学博士号授与(勅令第三四四号学位第二条による)の通知が配達される。差出人は文部省専門学務局長・福原鐐二郎である。明日の午前十時に平服で出席されたい、但し本人が出頭出来ない場合は代理人でよい、と付記されている。
鏡子は近所の山田家の電話を借り、病院の漱石に連絡する。
二月二十一日の朝、鏡子は文部省に電話し、漱石が入院中で授与式に出られないと伝える。入れ違いに文部省から使いの者が来て、学位記を置いて行く。
夜、漱石は福原鐐二郎宛に博士号辞退の手紙を書く。
《小生は今日迄たゞの夏目なにがしとして世を渡つて参りましたし、是から先も矢張りたゞの夏目なにがしで暮したい希望を持つて居ります。従つて私は博士の学位を頂きたくないのであります。此際御迷惑を掛けたり御面倒を願つたりするのは不本意でありますが右の次第故学位授与の儀は御辞退致したいと思ひます。宜敷御取計を願います。敬具 夏目金之助》
二月二十二日の午後、病院で薬を飲んでいると行徳二郎が学位記を持って来る。森田草平に頼んで文部省に返送して欲しいと伝える。
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