特集とりとめな記
特集編集班
特集とりとめな記
海遥
萩原朔太郎の詩に初めて触れたのは、1970年代の前半だった。高校の現代国語の教科書で詩集『月に吠える』の詩を読んで衝撃を受けた。以来、萩原朔太郎は、日本の近代詩の中でも別格のオーラをはなつ詩人となった。80年代には、大岡信や菅野昭正、北川透、磯田光一といった錚々たる論客たちによる評論や評伝が相次いで刊行され、朔太郎への関心は、詩壇を超える大きな広がりを見せていた。
ところが、90年代の後半になったころからだろうか。朔太郎への世の注目が次第に薄れているのを肌で感じた。若い人に好きな詩人の名を尋ねると、宮沢賢治や金子みすゞ、谷川俊太郎という答えが返ってきても、朔太郎の名を聞くことは少なくなっていたからだ。
そんな状況にも、ここ6、7年でまた変化の兆しがある。変化の発信源は、清家雪子の漫画『月に吠えらんねえ』である。この漫画を通して、萩原朔太郎や室生犀星、北原白秋、三好達治といった詩人や石川啄木、若山牧水のような歌人たちの存在を知る若者が少しずつ増えている。漫画には、特集で取り上げた種田山頭火を想定したキャラクターまで登場する。
取材でお会いした清家さんは、驚くべき勉強家だった。萩原朔太郎も室生犀星の作品も、全集で読破している。大正から昭和の近代史についても膨大な文献を読んでいる。生半可な知識では、とてもかなわない。こんな才人の手で、詩人たちが、新たな命を得て今に蘇るのなら、文学好きにとっても喜ばしい。
この特集が、時代を超える天才に、新たな光を当てるささやかな光源となれ、と願っている。
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