町田康の読み解き山頭火
町田康
町田康の
読み解き山頭火
町田康
第十回「うしろ姿のしぐれてゆくか」三
長いこと歩き回って疲れ果てた山頭火は昭和五年十一月二十六日、福岡は糸田の木村緑平方に驀進する。このとき既に山頭火は、もはや歩くのをやめたい、と考えていたようだった。
じゃあ、どうするのか。還俗して就職するのか。いやそうではなく、山頭火は或る事を考えていた。それは佳きところに草庵を結び、そこに定住して読経と俳句三昧の日を送り、それでなんとか生を完成させて死を迎えようという考えで、とにかく山頭火は歩くことをやめたかった。一箇所に留まって、疲れ切った身体を休めたかったのである。
だけど、はっきり言って、それには金がかかる。
気に入った土地があり、「あー、ここ、いいわー」と言って、そこにテキトーに小屋を建て、なんやら庵、と書いた札をぶら下げて、住むということはこれはできない。なぜなら土地には必ず所有者があり、それ以外の人が無断でそれを使用することはできず、そうしたければ所有者と交渉して買うか借りるかしなければならないからである。
となれば頼れるのは木村緑平しかいない。だから驀進した山頭火の、その驀進力には、ただ単に、「つらい行乞の
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