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『 猛獣ども 』

井上荒野

猛獣ども

井上荒野

小松原慎一

今日は忙しい日になるだろうと思っていたのだが、予想をはるかに超えて忙しくなり、というか予想もしなかったとんでもない日になった。

そういうことが俺の人生にはよく起きるよな、と小松原慎一は思い、あらたなダメージを受けた。管理人をしている別荘地内でふたりの男女が熊に襲われて殺されたことよりも、そのダメージのほうが大きいかもしれなかった。

朝七時前、その事故のことを慎一が知ったのは、悲鳴によってだった。被害者たちのものではなくふたりの死体を最初に目撃した女性が上げた悲鳴で、といっても慎一が直接聞いたのではなく、悲鳴を聞いた住人からの電話を受けたのだ。現場は別荘地の南端の、川に沿った山道で、電話をかけてきたのは、その近くに定住している扇田さんの奥さんだった。さっきからずっとものすごい声が聞こえてるんですけど、どういうことなんでしょう? 扇田夫婦は別荘地の新参者にしてすでに名うてのクレーマーとなっていたから、慎一はいつものように聞き流していた。けれどもそのうち、電話口を通してその悲鳴が聞こえてきたのだった。近くといったって扇田さんの家は川のこちら側のずっと下のほうで、後からわかったことだが現場までは一キロ近くある。どれほどの悲鳴だったかということだ。

慎一が軽トラでその場所に行き着いたとき、悲鳴の主、神戸ごうどさんの奥さんはもう静かになっていた。

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