『 銭湯放浪記 』
大和久勝
銭湯放浪記
大和久勝
第3回
氷点下の銭湯へ「小樽」
イラスト 木下綾乃
札幌は大雪で、大通りを歩くのにも苦労した。私は「いいな、雪って」と繰り返したが、札幌の友人に「雪がいいっていうのは雪の大変さを知らないからだ」と言われてしまった。しかし、だからといって友人は雪が嫌いだとは言わなかった。「雪は、生活の一部。雪なしに北海道の生活は考えられない」「生きているよろこびも雪とともにある」と誇らしげに言っていた。
札幌で仕事を終えたあと、半日あったので小樽に行ってみた。冬の海が見たかった。1時間もかからずに小樽に着く。途中、銭函あたりの車窓からの景色は素晴らしい。銭函駅には是非とも降りて海岸線にある人家の通りを歩いてみたいと思った。それも雪の日がいい。そんなことを考えながら小樽の駅に降り立った。
小樽の駅は趣のある昔からの駅舎で、初めてなのに懐かしさを感じた。昭和初期(昭和9年)の建造物で、北海道内最古のコンクリート造りの駅舎だという。吹き抜けのホールもレトロな雰囲気で、駅舎全体が郷愁を感じさせてくれる。
小樽の駅前に立ったとき、このまま立ち去りたくないという気持ちになった。そして、札幌に戻らずに小樽で泊まることにした。駅前の交番で紹介してもらい、小樽の老舗の旅館にお世話になった。
小樽といえば「寿司屋通り」が有名。100軒以上の店があると聞いた。これは行かなくてはと思ったから、
ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。