岡本行夫「スーパーフィッシュと老ダイバー」希望と感動の最終回  今すぐチェックする

『 旅する少年 』

黒川創

旅する少年

黒川創

2 寂しさに負けながら

小学校六年の冬が近づいた。このころには、SL仲間の同級生たちとはやや離れたところで、毎日、一人で長期の旅行計画づくりに没頭するようになった。

SL好きの友人たちの興味の中心は、「蒸気機関車」という乗り物それ自体にあったろう。私も、そこに強く惹かれていたのは確かなのだ。けれど、自分のなかでは、どこか、それさえ、一つの名分としているところも感じていた。要するに、鉄道の全国的なディーゼル化・電化の波に押されて消えつつある「SL」の撮影という目的を実行することで、「旅」を続けていたい、という気持ちだった。「SL」は好きなのだが、むしろ、私の主眼は「旅」のほうに移っていた。だが、旅を続けるための旅、というのは、誰にとっても理解しがたい。ひとまずは、大好きなSLを追いかけるため、と明確な目的を掲げるほうが、他人に対してだけではなく、自分にとっても、この行動に輪郭が与えられる、といったところだろうか。

友人たちの家庭にも、それぞれの事情や、教育方針の違いがあったはずである。私の家庭は、両親の夫婦仲が不安定とはいえ、地方公務員で共稼ぎの中産階層である。私が育った地域では、もっと年収の低い家庭のほうが、ずっと多かっただろう。それに、まだ小学生なのだ。自由に旅をすればいい、などと言ってもらえる家庭があるはずもない。

私自身の関心も、自分「一人」で旅をする、という冒険心に向かうようになっていた。そうした旅を思い描くと、寂しくもある。だが、未知の土地へと出向いていきたいという魅惑のほうが、それよりずっと強かった。

大判の時刻表と、ノートが一冊、いつも手もとにあった。

ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。

最新号のコンテンツ

連載 連載詩 (2021年1月号)

最少の言葉で詩作する試み

自然は語らない、ヒトは混沌にいる。最少の言葉で詩人は今を紡ぎ出す

谷川俊太郎

連載 フォト小説 (2021年1月号)

スーパーフィッシュと老ダイバー

ジョージとハンスはそれぞれの新世界へ。希望と願いに満ちた最終回

連載 連載詩 (2021年1月号)

週末のアルペジオ

温もりが胸に落ち、隅々まで染みていく。目覚めた朝へ踏み出すために

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年1月号)

寺子屋山頭火

近親者の死と銭の苦しみ、不安定な精神を抱える山頭火を大震災が襲う

連載 イラスト評伝 (2021年1月号)

エピソードで知る種田山頭火

母親と弟の自殺、実家破産。山頭火を見舞う悲劇の連鎖が句作の源泉に

春陽堂書店編集部

連載 エッセイ (2021年1月号)

俳句で味わう、日本の暮らし

節分は旧暦新年・立春の前日。豆撒で邪鬼を祓う情感豊かな名句を鑑賞

連載 回想記 (2021年1月号)

旅する少年

キャロル、ほんやら洞、わいせつ裁判、思春期とSLラストラン撮影行

連載 医学ミステリー (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

19歳で医学部を卒業した早熟の天才・森鷗外のエリートならではの苦悩

連載 動画&エッセイ (2021年1月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

素材により表情が異なる花器。自由な発想で向き合うのがカーリィ―流

假屋崎省吾

連載 スポーツ随想録 (2021年1月号)

スポーツは文芸をどのように彩ってきたか

国の理想が揺らぐ時代の破天荒小説・ロス『素晴らしいアメリカ野球』

連載 妖異譚 (2021年1月号)

鬼ものがたり

燭台の灯りに浮かんだ小中将君。それは亡くなる直前の美しいまぼろし

連載 アート&エッセイ (2021年1月号)

伝統と破壊の哲学

トンボが水面に卵を産むように、僕は世界に自分の作品を産みつける

連載 新人デビュー小説 (2021年1月号)

愛のレシピ:23歳

たくさんの出会いと別れ、愛が育んだ味。私をつくった23年分のレシピ

連載 動画 (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

「森鷗外の生き方にみる医学界の学閥」Dr.の必見YouTube好評配信中

連載 動画 (2021年1月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第2回配信

Web新小説会員登録はこちら