町田康の読み解き山頭火
町田康
町田康の
読み解き山頭火
町田康
第八回「うしろ姿のしぐれてゆくか」一
昭和五年九月熊本を旅立った山頭火は、十月は宮崎を行乞し、北上して十一月は大分から福岡に入り、それから南下して十二月十五日に熊本に戻った。
なぜ戻ったのか。と、山頭火に問えば、「別に戻ったわけではない」と言うのかも知れない。というのは行乞流転の旅に目的地はないからで、目的地があった場合、目的地に着いたら出発地に戻るよりほかないが、目的地がなければ出発地も他のすべての宿場と同じく、通過点に過ぎないからである。
じゃあ、なんのために歩くのか、というと一箇所に居られないからで、なぜ居られないかというと、旅立った時点は兎も角、旅を続けているうちにその理由は次第に明確になってくる。
すなわち経済的の理由である。なんとなれば、一箇所に居ようと思えば宿代がかかる。だから宿酔でしんどくても、
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