登録初月は無料!バックナンバーも読み放題!会員登録はこちら  今すぐチェックする

『 旅する少年 』

黒川創

旅する少年

黒川創

10 雪女の伝説

一九七六年の春休み。私は一四歳で、四月の新学期から中学三年生となる。

この春は、東北の「陸奥みちのく」地方を旅することにした。青森県・岩手県・宮城県および秋田県の鹿角かづの地方、といったあたりである。旅行者に開けっぴろげな寛容を示してくれる北海道と、この地方の印象は違う。重畳たる地理の広がりも、感覚をつかむのが難しい。行けども行けども、歴史の襞が織りなす迷宮をさまよい続けているようにも感じるのだ。

当時撮った写真のネガなどを今回四五年ぶりに確かめると、すっかり忘れていたことにも気づかされる。たとえば、このときの旅では、序盤の数日間、南雄二君という道連れがいたらしい。前年春の北海道旅行中、テレビドラマ「傷だらけの天使」の最終回観たさに、旭川駅の待合室に置かれたテレビを目指して、道東の網走方面から、遠路二五〇キロを一緒に移動した京都の高校生である。たしか、彼は、私より三つ年上。北海道でSL撮影をするなかで知り合ったのだが、京都に帰ってからも互いの家が近く、行き来があった。

いま、こうして七六年春の東北への旅の写真をたどると、初めの数日、列車の車中で彼がにやにや笑っていたり、座席にうずくまって熟睡したりしているコマがある。あ、南君? と驚いた。

たしかに、われわれは、駅のベンチや車中でも、こんなふうに眠っていた。そのことを思いだす。眠る彼の脇には、重そうなジュラルミン製のカメラバッグが置かれている。当然、彼と同行しているあいだは、旅の行き先も鉄道関係の撮影地である。

まずは東京の王子駅付近で、都電などを撮影した。そのあと、上野駅から東北本線の夜行の急行「八甲田54号」に乗っている。

登録初月は無料

ここから先をお読みいただくには
会員登録をお願いいたします

登録をすると、創刊号(2020年2月1日号)からのバックナンバーをすべてお読みいただけます。

最新号のコンテンツ

巻頭特別寄稿 ≪今、感じねばならぬ時≫ (2022年1月1日号)

肉の森

幼年期、番台から眺めた裸の人間。欠損した骨と肉の切断面に視たもの

特集「コロナ禍、真実が見えますか」 (2022年1月1日号)

コロナ禍、路上の「野戦病院」

貧困の現場を目撃してきた活動家が伝える、コロナ禍の切実な生の声

連載 連載詩 (2022年1月1日号)

週末のアルペジオ

昨日ではなく、明日でもない、ただこの瞬間をたくましく生きるために

三角みづ紀

連載 連載小説 (2022年1月1日号)

猛獣ども

手作り弁当から手繰られる男女。かけひきか、運命か、そして事件は?

連載 エッセイ (2022年1月1日号)

町田康の読み解き山頭火

どうしようもなさから逃れ切れない山頭火を絶句に至らしめたものは?

連載 ショートショート漫画 (2022年1月1日号)

しおり物語

いちごジャム8個? 一枚の買い物メモに妄想膨らむほっこりなお正月

連載 動画 (2022年1月1日号)

待ってました! 黙阿弥歌舞伎への招待

悪党二人が仕掛ける江戸城御金蔵破りの実録物・電脳紙芝居「四千両」

春陽堂書店Web新小説編集部

連載 エッセイ (2022年1月1日号)

兼好のつれづれ絵草紙

お目出たくてワクワクする初席。お約束の、師匠元日の一言で笑い初め

三遊亭兼好

連載 ウェブ絵巻 (2022年1月1日号)

漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―

是公の勧めで満州に渡った漱石。旧友たちが次々と訪れ満韓を巡遊する

連載 俳句鑑賞 (2022年1月1日号)

楸邨山脈の巨人たち

虚子に傾倒した川崎展宏の第一回。「寒雷」では異端だった視点を鑑賞

連載 医学ミステリー (2022年1月1日号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

生来の能力の高さから若くして活躍。やがて目的を見失った芥川龍之介

連載 紀行エッセイ (2022年1月1日号)

銭湯放浪記

最終回は佃島の銭湯。震災と空襲を逃れ、江戸情緒と心意気を今に残す

連載 動画 (2022年1月1日号)

Dr.よねやまの芸脳生活

旅と作家~Dr.米山の必見YouTubeレクチャー第20弾

連載 動画 (2022年1月1日号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第4回配信

(2022年1月1日号)

次号予告

特集「ウィズコロナ、もう一つの生き方」この危機を作家たちはどのように受けとめているのか?

春陽堂書店Web新小説編集部

登録初月は無料

Web新小説会員登録はこちら