兼好のつれづれ絵草紙
三遊亭兼好
兼好のつれづれ絵草紙
三遊亭兼好
其ノ十五 拙者、ピンチでござる
楽屋で、出番直前にふと思った。
「そう言えば、近ごろ『ピンチ』って言葉使わないなあ」
何か追いつめられたり、失敗したり、切羽詰まった時に誰もが口にしていた「ピンチ」。本の題名等などでは見かけるが、ここ何年も声に出して「ピンチ」と言ってないし、周りの人が「これはピンチだな」などと言っているのも聞かない。いつから言わなくなったのか? また耳にしなくなったのか? 中学生くらいまでひんぱんに使っていた気がする。
学校に遅刻しそうになれば「ピーンチ」と叫び、テストのヤマが外れれば「ピンチだ」と呟き、トイレに行きたいのに家が留守で鍵がしまっていれば「ピ…ん……チ…」と涙を流した。
高校生くらいになると「ピンチ」の代わりに「超最悪」とか「超最低」などと言うようになったが、
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