岡本行夫「スーパーフィッシュと老ダイバー」希望と感動の最終回  今すぐチェックする

『 アーツ&クラフツ、娘の仕事 メイ・モリスという才能 』

大澤麻衣

アーツ&クラフツ、娘の仕事 メイ・モリスという才能

大澤麻衣

第3回 情熱的なチームリーダー

「私は普通の女ではありません。昔からそうでした。誰もそうは思っていなさそうですが」

メイは、当時恋愛関係にあったとされる劇作家ジョージ・バーナード・ショー(注釈1)への手紙にこう書いた。短いながらも彼女の性格が読みとれる一文だ。時には情熱的で、時には冷淡。23歳という若さでモリス商会の刺繍部門をまとめるためには、そのような頑強な気質が必要だっただろう。なんといってもメイのもとで働く女性たちはみな彼女と同世代か年上だったのだから。

© William Morris Gallery, London Borough of Waltham Forest

1890年にヘンリー・スパーリングと結婚して住んだハマースミス・テラスにて刺繍をするメイ。モリス商会の刺繍部門は、メイの母ジェーンや姉ジェニーをはじめとする女性7人ほどで構成され、この自宅のドローイング・ルームで作業をした。残念ながらスパーリングとの結婚生活は長くは続かなかった

© Victoria and Albert Museum, London

建築家フィリップ・ウェブ(1831−1915)による祭壇にかける前飾りのデザインと、それをもとにしたメイの刺繍(1898年頃)。「前飾りは教会で最も神聖で重要な役割を果たすもの。そのことを理解し、それに値する最高の仕事をしてくれるのはメイしかいない」フィリップはそう断言したという

天然染料で染められた様々な色の糸を、ひと針ひと針、手で縫っていく。刺繍部門の女性たちによる刺繍布は、父ウィリアム・モリスによって商品化された最初のインテリア用品だった。そしてベッドカバーや壁掛け、クッションだけでなく、教会の装飾や服飾にいたるまで幅広く使われるようになった。

色糸とステッチを的確に選び、渡されたデザインに命を吹き込んだメイ。のちに教鞭をとったセントラル・スクール・オブ・アーツ&クラフツ(注釈2)でこう言及している。

「糸選びは慎重にしなくてはなりません。色自体は奇麗であっても隣の色との配色によっては見苦しくなることもありますから」

デザイナーは刺繍作家としての彼女の才能を信頼し、心置きなく仕事を任せられたことだろう。

ところがメイは、「優れた針子」というだけでは決してなかった。メイの刺繍に対する知識が凝縮された最高傑作といわれるデザインがある。先のジョージ・バーナード・ショーも「まるで育ち続ける果実の森」と評した「フルーツ・ガーデン」だ。

2014年。ある一つの刺繍が再発見された。まさにメイのその「フルーツ・ガーデン」の要素がつまった一対の天蓋付ベッド用カーテンだった。

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