旅する少年
黒川創
旅する少年
黒川創
6 学級新聞と紙パンツ
一九七四年、中学一年生の夏休みの終わり、一カ月余りに及んだ北海道への旅から、よれよれになって、私は京都に帰り着く。だが、立ち直りは早かったようだ。
九月に入るかどうか、という時日だったと思うが、新聞紙上で、こんな内容の催しの案内をみつけた。
九月一四日(土)から一六日(月・祝日)、奈良県天理市のユースホステル山の辺の家で、「日本文学者・中西進氏による『万葉集』をめぐる講演と、山の辺の道の歴史散策」が開かれる。主催は「古都奈良を愛する万葉人の集い」。
私は、すぐに申し込んだ。参加料は、ユースホステルに二泊三日で滞在する金額に、いくらか加算する程度のものだったはずだ。
なぜ、中学生の私が、こういう催しに興味があったか、いまとなってははっきり思いだすことができない。だが、旅への興味が、おのずと、行く先々の地域史への関心に結びついたことは確かだろう。
第3回(「春とともに終わる」)に述べたことだが、たとえば、南九州に旅したとき、宮崎・美々津の漁港近くをSL撮影のために歩いていると、「日本海軍発祥之地」と記した大きな記念碑が建っている。なんだろうと思い、ゆかりの解説を読んでみると、この地には、太古、神武天皇が「東征」に出発した港である、との伝説がある、というようなことが書いてある。そのことと「海軍」が、いったいどんなふうに結びつくのかよくわからないが、ともかく「記念碑」というのはそういうものらしい。
近くの延岡駅からは、高千穂線という山峡に向かう路線が出ていて、終点は高千穂駅、その一つ手前は天岩戸駅。
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