SNS(喧騒)から少し離れて
上田岳弘
年が明けて考えた。生命としての安寧とは
上田岳弘
年が明けた。幼い頃は、年が明けることをなにか一大事のように感じていたものだけど、年々慣れてくるというか、年末年始もすっと過ごしてしまうようになってくる。そうはいっても、一年の振り返り的な特集を目にする機会は増えてきて、2022年の大ヒット商品にYakult1000/Y1000が数えられていると知った。日経トレンディが発表するオールジャンルのヒットランキングによれば、最もヒットしたものであるのだとか。(ちなみにそのランキングでは、2位は「ちいかわ」、3位は「PCM冷却ネットリング」、4位は「トップガン マーヴェリック」とのことだから、オールジャンルのほどが知れますね)
そのY1000、ヒットの要因は明確で、摂取の効果として、「睡眠改善」と「ストレス軽減」が謳われていることだ。その効果を実感したという有名人を含む多数の使用感が取りあげられたことも大きい。睡眠不足とストレス軽減、この二つに興味がない社会人はいるだろうか? 僕自身、睡眠の浅さ、というか、一晩に眠れる時間の漸減を実感していた今日この頃だった。
以前からY1000の存在は知ってはいたものの、半信半疑だった。そんな子供の頃からなじみのあるあの乳酸菌飲料を飲んだくらいで、よく眠れ、ストレスが減るなんてことあるわけない。そう考え、スルーしていたのだけど、いつものコンビニでいつも売り切れのそれが並んでいるのをたまたま発見し、購入した。以来、毎日早朝の争奪に勝つために、コンビニをのぞく日々を続けている。一番近いローソンは7時には売り切れているが、少し足をのばしたところにあるセブン–イレブンは、一人1本までしか売らない方針を貫いているから、午前中だとだいたい買える。
効果の所以を知りたくて、Y1000と、それまでのヤクルトとの違いが気になって調べた。要は、容積あたりに占める乳酸菌の数が違うらしい。Y1000は、それまでの最高密度のものに比べて2倍以上の密度で乳酸菌が入っている。乳酸菌が増えることで、悪玉菌を減らす働きがあって、胃腸の調子を整えることは知っていたが、なぜ乳酸菌が高密度になれば、眠りやストレスに働きかけるのかがわからない。
これも気になって調べたところ、メーカーHPの説明によれば腸には迷走神経と呼ばれる神経が多数走っており、それが脳と繋がっているらしい。高密度の乳酸菌がしっかりと腸を守っているという情報がこの神経を通じて伝わって、よく眠れ、ストレスが軽減するらしい。生体反応として確からしいことはサンプリングによって確認されているが、なぜそうなのかは別に考える余地がある。まったくの私感だけれども、多分腸が安寧なのを感じて、脳もまた安寧を覚えるのだと思った。
生命の起源は諸説あるけれど、「生命」と我々が認識する要件は大きく二つ。まずは外部からエネルギーを取り込み自らの機能を有すること。それから細胞分裂であれ、生殖であれ、なんらかの手段で自分を増やすこと。中でも前者さえあれば、我々はその存在を生命と認識しがちであるように感じる。たとえ一代限りの存在だとして、貪欲になんでも自分の中に取り込み、それを自らのエネルギーに変えていく者を目の当たりにしたならば、少なくとも僕はそれを生命っぽいと感じるだろうな、と思う。
たいていの植物は太陽の光を自分に取り込んで生きている。一方動物は、他の生き物を食べて、胃で溶かし、腸で自らのエネルギーへと変換する。「胃腸」と一体的な呼び方をするけれど、腸で吸収しやすくするための機能である胃はサポート役であるともいえる。その方向で考えをすすめたならば、体を動かすための筋肉も運動神経も、栄養源を補食し食物を胃で溶かしやすくするためにかみ砕くための歯や口も、すべては腸に外部を送り込み吸収しやすいようにするための器官であるように思えてくる。
脳だって例外ではない。いかにして、食物を得、腸に送り込むか、どれだけ安定的にそれを継続するか。そのための器官が脳であって、要の腸が高密度の乳酸菌でがっちり守られていることを感じ取れば、よく眠れ、ストレスが軽減するのは当然と言えば当然なのかもしれない。
と、そんなわけで、僕は今日もまた早朝にコンビニにでかける。
【ご感想はこちらからお送り下さい】
Web新小説のSNSでアップさせていただく場合もあります。(ハンドルネーム可)