鬼ものがたり
桑原茂夫
鬼ものがたり
桑原茂夫
第10話
極悪聖人に天罰下る 編
絵 東學
足の向くまま方々を渡り歩いて、阿弥陀像製作の寄附金を募る法師は「阿弥陀の聖」といわれ、行く先々で敬意をもって迎えられ、喜捨を受けたりしていました。しかしなかには、とんでもないクソ法師もいて、びっくりさせられます。わたしの村に現れた法師は、その中でも最低最悪の法師だったと思います。
まあその法師が、しゃあしゃあとゲロした話を含めて、何が起きたのか、ぜひお聞きください。
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その法師が山の中をひとり歩いているとき、たまたま、わたしと旧知の間柄であった村の衆に出会ったそうです。一方の端に鹿の角を付け、もう一方の端に、二股になった金具を付けた、恐ろしげな杖を持ち、胸には鉦鼓をぶら下げた、いかにも「阿弥陀の聖」らしい格好をした法師です。
連れ立って歩いているうちに、昼どきになったので、村の衆が道端に腰をおろし、先に行こうとしていた法師に声をかけ、おにぎりを差し出しました。法師たる者、いったんは辞去するなど、少しは遠慮するものですが、この法師はそれどころか、すぐに座り込んで手を延ばし、村の衆に遠慮することなく、ほとんど食べてしまいました。
村の衆はこの時点で、この法師、ちょっとおかしいぞと、思ったんじゃないでしょうか。でもそんなことはおくびにも出さず、おとなしくしていたのでしょう。
ところが法師のほうは、この村の衆に感謝するどころか、その善良さにつけこむことしか考えていませんでした ここは人が滅多に来ないところだろう。「阿弥陀の聖」としてわしを信頼しきっているこいつを殺して、荷物の中のものや、着ているものをいただいてしまおう
もちろん村の衆は、「阿弥陀の聖」がそんなことを企んでいるなどとは、露ほども思っていません。よっこらしょと、荷物を担いで立ち上がろうとしたそのとき、法師は持っていた杖の、二股になった金具で、いきなり、力任せに、村の衆の首を突きました。
な、なにをなさるか!
と叫ぶのが精一杯。その声は、虚しく山の中にこだまするばかり。
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