【無料公開3/15(月)まで】震災から10年―いま、ここに、詩の言葉を  今すぐチェックする

『 鬼ものがたり 』

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

10

極悪聖人に天罰下る 編

絵 東學

足の向くまま方々を渡り歩いて、阿弥陀あみだ像製作の寄附金を募る法師は「阿弥陀のひじり」といわれ、行く先々で敬意をもって迎えられ、喜捨を受けたりしていました。しかしなかには、とんでもないクソ法師もいて、びっくりさせられます。わたしの村に現れた法師は、その中でも最低最悪の法師だったと思います。

まあその法師が、しゃあしゃあとゲロした話を含めて、何が起きたのか、ぜひお聞きください。

   ●

その法師が山の中をひとり歩いているとき、たまたま、わたしと旧知の間柄であった村の衆に出会ったそうです。一方の端に鹿の角を付け、もう一方の端に、二股になった金具を付けた、恐ろしげな杖を持ち、胸には鉦鼓かねをぶら下げた、いかにも「阿弥陀の聖」らしい格好をした法師です。

連れ立って歩いているうちに、昼どきになったので、村の衆が道端に腰をおろし、先に行こうとしていた法師に声をかけ、おにぎりを差し出しました。法師たる者、いったんは辞去するなど、少しは遠慮するものですが、この法師はそれどころか、すぐに座り込んで手を延ばし、村の衆に遠慮することなく、ほとんど食べてしまいました。

村の衆はこの時点で、この法師、ちょっとおかしいぞと、思ったんじゃないでしょうか。でもそんなことはおくびにも出さず、おとなしくしていたのでしょう。

ところが法師のほうは、この村の衆に感謝するどころか、その善良さにつけこむことしか考えていませんでした  ここは人が滅多に来ないところだろう。「阿弥陀の聖」としてわしを信頼しきっているこいつを殺して、荷物の中のものや、着ているものをいただいてしまおう  

もちろん村の衆は、「阿弥陀の聖」がそんなことを企んでいるなどとは、露ほども思っていません。よっこらしょと、荷物を担いで立ち上がろうとしたそのとき、法師は持っていた杖の、二股になった金具で、いきなり、力任せに、村の衆の首を突きました。

な、なにをなさるか!

と叫ぶのが精一杯。その声は、虚しく山の中にこだまするばかり。

ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。

最新号のコンテンツ

詩と朗読動画 (2021年3月号)

いま、ここに、詩の言葉を ――東日本大震災から10年

東日本大震災から10年。10の詩と朗読が言葉と記憶を未来へとつなぐ

春陽堂書店Web新小説編集部

連載 連載詩 (2021年3月号)

最少の言葉で詩作する試み

朝に夕暮れに言葉が現れる。天と地の隙間で言葉は枝先に留まっている

谷川俊太郎

連載 連載詩 (2021年3月号)

週末のアルペジオ

愛おしく、ひたむきに、整え重ねられた日々。そしてまた、春がめぐる

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年3月号)

寺子屋山頭火

自分に耐えられず大酒を飲む山頭火。酔った挙句、電車の前に仁王立ち

連載 イラスト評伝 (2021年3月号)

エピソードで知る種田山頭火

酒に溺れる壮絶な生涯。禁酒を誓う一方で、大酒を止められない山頭火

春陽堂書店編集部

連載 エッセイ (2021年3月号)

俳句で味わう、日本の暮らし

灌仏会は釈尊誕生を祝して行う法会のこと。寺々に喜びの景色が広がる

連載 ウェブ絵巻 (2021年3月号)

漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―

漢籍や文学に夢中で、英語は大嫌いだった。迷い多き十代の夏目漱石

連載 回想記 (2021年3月号)

旅する少年

本土復帰した沖縄へ。那覇、八重山諸島、基地と海と3枚のTシャツ

連載 エッセイ (2021年3月号)

兼好のつれづれ絵草紙

落語でもおなじみの「はばかり=厠」をめぐって、噺家たちが喧々囂々

三遊亭兼好

連載 俳句鑑賞 (2021年3月号)

楸邨山脈の巨人たち

金子兜太から始動。孫弟子が俳人加藤楸邨の系譜を辿る愛ある俳句鑑賞

連載 医学ミステリー (2021年3月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

文学者の業績と軍医としての後悔。森鷗外の死は最後の自己表現なのか

連載 動画&エッセイ (2021年3月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

梅、桃、そして桜を待ち望む春。カーリィー先生のお花見の穴場も紹介

假屋崎省吾

連載 スポーツ随想録 (2021年3月号)

スポーツは文芸をどのように彩ってきたか

なぜ野球はスポーツ文学の王者たりえたのか? 数々の名作が語る魅力

連載 妖異譚 (2021年3月号)

鬼ものがたり

おもいびとと一夜を過ごしたお堂に長い髪と白い衣裳の女が現れて……

連載 紀行エッセイ (2021年3月号)

銭湯放浪記

弘前の繁華街で見つけた、その名も娯楽湯。人情味溢れる接客に感激

連載 動画 (2021年3月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

「安楽死とは~森鷗外の生き方にみる」Dr.の必見YouTube好評配信中

連載 動画 (2021年3月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第2回配信

Web新小説会員登録はこちら