楸邨山脈の巨人たち
北大路翼
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北大路翼
第二回 金子兜太(二)
前衛から自由へ
第三句集『蜿蜿』(一九六八年刊)になると句柄に多少変化があらわれる。内容の変化もあるが、何よりも五七五の定型に近づいていることに驚く。兜太独特のリズムは残しつつ、下六の句が減り、下五の定型で収まっている句が増えている。
このことは定型を遵守するためではないことに触れておかねばならないだろう。問題は、それまでいかに無理やりな下六が多かったかということにある。
人刺さぬ短刀落ちていて霧のぼく等
白い漁港に生生と垂るぼく等の四肢
暗いチヤペルと毒気に満ちた海の者等
いずれも『金子兜太句集』(一九六一年刊)の後半から引いた句である。それぞれ下の句に注目して欲しい。「きりのぼく」「ぼくのしし」「うみのもの」とすれば五音で収まるではないか。特に三句目は「ら」があってもなくてもさほど意味も変わらないだろう。兜太はなぜ定型を壊してまでも「等」にこだわったのだろうか。下五だけではなく、この頃の句全般に「等」の使用頻度は高い。「子等」「君等」「船員等」などなんでも「等」だ。同じ用法では「青年達」なんていうのもある。同時期で著名な「銀行員等朝より螢光す烏賊のごとく」も「等」を入れることで六音になっている。
一般的に俳句では具体的なものを挙げた方が、よい句になりやすいといわれている。具体的で細かいものの方が
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