キャンペーン情報やWeb新小説の裏話も!公式Twitterはこちら  今すぐチェックする

『 愛のレシピ:23歳 』

下平咲

愛のレシピ・・23

下平咲

お弁当の愛が届くまで

私はお弁当の時間があまり好きじゃなかった。

母が私に持たせてくれるお弁当はいつも、おにぎり2つ、野菜一日これ一本、さけるチーズのプレーン味と決まっていた。

その時はなぜ毎回同じものを持たせるのか分からなかったが、栄養士を目指して栄養学を勉強していた時期もあったため、今なら母がこのお弁当を持たせた理由が分かる。

このお弁当には体に必要な栄養素が完璧に揃っているのだ。

糖質、脂質、タンパク質の三大栄養素はおにぎりとチーズで、ミネラルやビタミンは野菜ジュースで補う。
チーズは発酵食品であり、また脂質やタンパク質の他にも人間に必要な栄養素がほぼ揃っているため、私の母から絶大な支持を受けていた食べ物だった。

母は添加物を嫌ったため、お弁当に冷凍食品を使うことを避けていた。
とはいえ、仕事がある日に手の込んだおかずを作る時間もなかったため、母なりに考えて出来上がったお弁当が、この栄養素完璧弁当だったのだ。

そんなことを知らなかった当時の私は、母のこのお弁当が嫌だった。みんなのお弁当はカラフルで、お母さんの愛情もいっぱい詰まっているのが一目で分かるものばかりだった。

私のお弁当は栄養を効率よく摂取する面では誰のお弁当よりも優れていたと思う。
でも、可愛くはなかった。唯一母が握ってくれたおにぎりでさえ、海苔がビッシリと全体を覆っていて、爆弾みたいだった。

みんなのお弁当は、真っ白なお米でさえ黄色やピンクのふりかけでおめかしされていたというのに、私の爆弾にぎりを齧って出てくるのは、鰹節にお醤油をまぶしたオカカだった。

ここから先をお読みいただくには
会員登録をお願いいたします。

登録をするとすべての著者のバックナンバーをお読みいただけます。

最新号のコンテンツ

連載 連載小説 (2021年9月号)

猛獣ども

別荘地で熊に殺された男女…不穏な波紋の広がる先は。注目の新連載

連載 連載詩 (2021年9月号)

最少の言葉で詩作する試み

言葉の意味から滲み出すものを探る。最少の言葉で紡ぐソネット最終回

谷川俊太郎

連載 連載詩 (2021年9月号)

週末のアルペジオ

走り去る列車が映し出す過去。適切な孤独が作り出すふたりの未来

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年9月号)

町田康の読み解き山頭火

一所不在の俳人・山頭火。作品を鑑賞しながら縦横無尽に人生をたどる

連載 イラスト評伝 (2021年9月号)

エピソードで知る種田山頭火

生涯を放浪の中に生きた山頭火。行乞の日々とはどんなものだったのか

春陽堂書店編集部

連載 動画 (2021年9月号)

待ってました! 黙阿弥歌舞伎への招待

坂東彦三郎の朗読とGIFアニメで楽しむ電脳紙芝居第6弾「髪結新三」

春陽堂書店Web新小説編集部

連載 エッセイ (2021年9月号)

兼好のつれづれ絵草紙

同じ言葉でも誰に言われるかで変わる?「おい、その咄誰に習った?」

三遊亭兼好

連載 ウェブ絵巻 (2021年9月号)

漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―

ロンドンで化学者・池田菊苗と共に過ごし、大きな刺激を受ける

連載 俳句鑑賞 (2021年9月号)

楸邨山脈の巨人たち

加藤楸邨門下を読み解くシリーズ。冷徹な作風の女流・寺田京子第一回

連載 医学ミステリー (2021年9月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

最晩年まで安定して執筆を続けた常識人・泉鏡花の稀有な作家人生とは

連載 動画&エッセイ (2021年9月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

9月9日は重陽の節句。品格があり高潔な菊は大人の雰囲気にぴったり

假屋崎省吾

連載 紀行エッセイ (2021年9月号)

銭湯放浪記

ウワサの銭湯見たさに新幹線で京都へ。目の前に現れた贅沢な空間は?

連載 動画 (2021年9月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

熱海の物語と尾崎紅葉~Dr.米山の必見動画第16弾

連載 動画 (2021年9月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第4回配信

Web新小説会員登録はこちら