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『 鬼ものがたり 』

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

第3話

生き霊に恋した男 編

絵 東學

権勢をふるっていた男に無残な扱いを受けたうえで棄てられたひとが、生き霊いきりょうとなってその男に取り憑き、ついにこれを亡き者にしたという話が、実にもうさまざまな尾ひれ羽ひれをつけて世間に広がっています。ご存じかもしれませんね。じつはその女にいま、わたしは魂を奪われ、深間にはまっていくばかり。このまま命を絶たれるのもまたよしと、それなりに覚悟はしているものの、どなたかにコトの次第を伝えておきたいと、こうして参ったのでございます。

   ●

美濃尾張のほうへ行く用事があったときのことです。まだ夜も明けないうちに、都のはずれにある家を出て、都を突っ切って行こうとしたのですが、どこで迷ったのか、見慣れない辻にさしかかりました。

そのときです、何者かの気配を感じました。夜目にもぼーっと、あおーく霞んで見える衣をまとった女がひとり、つまを取って立っていました。一瞬歩をゆるめましたが、蔭に男ありと踏んで先を急ごうとしました。しかしちらっと目をやったのがいけませんでした。女のたたずまいが、きりっとしていて、なんともいえずうつくしい。とそう思ったとたん、足がいうことをきかなくなって、女のほうに吸い寄せられてしまいました。

すると女のほうから声をかけてきました。

「どちらへ?」

囁くような声で聞いてきたので、わたしは素直に答えました。

「美濃尾張のほうへ」

「まあそれはそれは」

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