『 スーパーフィッシュと老ダイバー 』
岡本行夫
スーパーフィッシュと老ダイバー
岡本行夫
第12章 ハンスの死 ― 光
ジョージがラスモハメッド岬のそばまで、帰りついた。出発してから3ヶ月たっていた。かれは、早くハンスと会いたかった。人間の地球破壊をどうやって止めるのか?
岬の絶壁が見えるシャーク・リーフの北壁をまわり、ジョージは、ようやく自分の旅がおわったと、安堵した。
そのときだった。ジョージの体に、大きな衝撃と痛みがはしった。
大量の緑色の液体が、体から流れだしていた。血は、海中では緑色に見える。若いダイバーが、水中銃で撃ってきたのだ。
堅いウロコのおかげで、銛は貫通しなかったが、若者は更に撃ってきた。二発目ははずれたが、こんどは別の方向から発射された銛が、体に深くささった。狙撃者は、ふたりいたのだ。
かれらは、「人にぶつかってくるナポレオンフィッシュ」を殺す、という明確な目的で撃ってきたのだ。
ジョージは、潜るしかない。深い傷を負ったまま、沈んでいった。
仲良しのムレハタタテダイたちが、心配してついてこようとしたが、かれらに潜れる深さではなかった。
ジョージは、沈んでいった。体が弱ってきた。意識が遠くなっていく。しかし海底をめざして、泳ぎつづけた。
不思議だった。海底にむかっているのに、光が見えてきた。
やがてジョージの体ぜんたいが光につつまれ、苦痛がなくなってきた。
声が聞こえた。あの声だ。
「ジョージ、おまえはスーパーフィッシュになったのだ。新しい旅がはじまったのだ。世界中の魚たちに、わたしの言葉を伝えよ。
人間たちは、おろかにも世界を破壊している。やがて、陸が海のなかに沈む。しかし、破滅するのは人間たちの世界で、地球ではない。
人間たちが山の上に追いやられれば、地球は元に戻る。おまえたちは、そのときが来るまで、深い海で暮らせ。何億年もつづいてきた命の流れを、つむいでいけ」
ハンスの声も聞こえてきた。
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