楸邨山脈の巨人たち
北大路翼
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第十五回 数奇なアベレージヒッター 沢木欣一(一)
成功と悲劇
沢木欣一といえばまずこの句が浮かぶ。句だけではない。「塩田」そのものが欣一のイメージだ。それほどに『塩田』は衝撃的であった。
塩田の一連は昭和三十年夏、能登曾々木の塩田を取材したものである。「能登塩田」と題し『俳句』に二十五句を発表した。当時欣一、三十六歳。
塩田に百日筋目つけ通し
塩田夫日焼け極まり青ざめぬ
海に日を沈め塩焼く火を守る
塩ぎつしり祈る形に掌差し入れ
(すべて『塩田』)
巻頭にも挙げた句は「つけ通し」が労働の過酷さを余さず伝えている。砂浜に海水を撒いては筋をつけるという単純作業が重い。「日焼け」が「青ざめぬ」もすごい表現だ。日光を遮るものがない砂浜では、日焼け
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