漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―
大高郁子
漱石クロニクル
―絵で読む夏目漱石の生涯―
大高郁子
第十一回 職業作家・漱石―『虞美人草』から『それから』まで
明治四十年(一九〇七年)四十歳
三月二十八日、朝日新聞社への入社が決まり、漱石はしばらく京都へ遊びに行く。
午前八時、新橋停車場を神戸行の最急行一等で出発、午後七時三十分、京都の七条停車場に到着。狩野亨吉と菅虎雄(三高の教授となっていた)の出迎えを受け、三台の人力車を連ねて、下鴨神社境内にある狩野の家に向かう。
《京都のfirst impression 寒イ》(日記より)
京都滞在中、狩野の家に投宿する。
三月二十九日、京都帝国大学(左京区吉田町)を訪ね、図書館と尊攘堂を見る。その後、祇園、円山公園、知恩院、清水寺などを訪れる。
《清水へ行く。途中で陶器ヲ買フ。俗地なり》(日記より)
三月三十日、詩仙堂、銀閣寺、真如堂などに行く。
三月三十一日の朝、漱石が京都に来たと聞き、大阪朝日新聞社の鳥居素川が訪ねて来る。素川は漱石の『草枕』に感心し、大阪朝日新聞社の社主・村山龍平に、漱石の入社を勧めた人物である。
この日、漱石は、鳥居素川の発案で、大阪朝日新聞社に招かれようとしていたことを、初めて知る。一方、素川は、漱石が「東京朝日新聞」にだけ小説を書けばいいと考えていることを知って失望する。
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