特集とりとめな記
特集編集班
特集とりとめな記
眠以子
もう三十年近く前になるが、我が家にも猫がいた。当時中学生だった弟が学校の裏庭で保護した仔猫を、脱いだ制帽の中にすっぽりと包んで連れ帰ってきたのだ。
猫はすぐに家族の一員となり、私たちを笑わせたり、心配させたり。やんちゃな〝末っ子〟として愛された。そして思ったより早く訪れた別れに、私たちはしばらく泣き暮れた。
猫との暮らしや思い出はそれぞれに、日々を豊かに彩り、彼らが去ったあとも宝物のように心に灯りをともし続ける。
大高郁子さんが思い出をたどって書かれた代々の猫たちとのエピソード。そして、愛らしさのなかに凛々しさもたたえる二匹の猫の絵。
浅生ハルミンさんが描くのは、地域に愛された〝一匹狼〟然とした猫。とんかつ屋のおかみさんとハルミンさんの交流、そして猫、それぞれの現在にほろりとさせられる。
そして、町田康さんがとらえる、種田山頭火が行乞流転の旅先で出会った一匹の猫とのこと。まるで山頭火と猫が目の前にいるかのような、絶妙な間合いが伝わってくる。
あらためて思う。
作家や画家、ものを書く、描く人のかたわらにいる猫たちは、犬やそのほかの動物たちとはまた違った特別なかたちで、〝相棒〟として存在するのだと。
今年の送り盆の日、実家で盆提灯を母としまっているときに、一陣の風が部屋に吹き込んできて窓際のレースカーテンがふわりと揺れた。
そこは、いつも愛猫が寝そべっていた特等席。
そうか、お前も帰っていたんだね、と見えない影に向かってつぶやいた。
事件、事故、災害、病…。
何も起きない日はないけれど、私は今日もおまじないをとなえてみる。
大丈夫、猫がいる。
するとなんだか胸のあたりがほわりと温かく感じられるのである。
あなたの近くにも、猫はいますか。